富士フイルムホールディングス株式会社 · 2026年3月期
富士フイルムは、写真の会社なのか。
富士フイルムという社名には、いまも『フイルム』が残っています。けれど2026年3月期、イメージングの売上は全社の2割弱。最大のセグメントはビジネスイノベーションで、ヘルスケアは1兆円を超えました。それでも写真は消えていません。むしろ写真で蓄積した技術を棚卸しし、別の市場へ運んできた歴史を見ると、医療や半導体が同じ会社にある理由が見えてきます。
投資判断や銘柄推奨を目的とした記事ではありません。企業が公開した一次資料を、会社の輪郭が見えてくる順番で読み直しています。
富士フイルムという名前は、会社がどこから来たのかをそのまま残しています。
写真フィルムの会社。カメラの会社。そんなイメージはいまも自然です。
ただ、現在の売上を4つの事業に分けると、その名前から想像する会社とはかなり違う輪郭が見えてきます。
まず、売上は3兆3,570億円
この規模だけでは、まだ写真の会社なのかどうかは分かりません。
そこで事業別に見ます。
イメージングは、売上の18.7%
イメージングは全社売上の2割弱
2026年3月期。セグメント売上を全社売上で割った当サイト計算。
では、写真は小さくなっただけの昔の事業なのでしょうか。
数字はそう単純でもありません。
イメージングの営業利益は1,600億円
写真を捨てた会社、というわけではありません。
むしろ、現在も強いイメージングを持ちながら、その外側にさらに大きな事業を作っています。
ヘルスケアは、すでに1兆円を超える
いまの富士フイルムは4つの事業でできている
2026年3月期のセグメント売上。
医療機器、バイオ医薬品の製造受託、半導体材料。
写真とは遠く見える事業が、なぜ同じ会社の中にあるのでしょうか。
写真フィルム市場の縮小で、「技術の棚卸し」をした
ここで事業をゼロから作り直したわけではありません。
会社は、自分たちが写真のために何をできるようになっていたのかを分解して見直しました。
1枚の写真には、化学・薄膜・画像・精密加工が詰まっていた
この見方をすると、医療も半導体も急に飛び出した事業ではなくなります。
まずヘルスケアでは、製品を売るだけでなく「薬をつくる工場」まで持つようになりました。
2011年、バイオ医薬品の製造受託へ本格参入
その事業は、いま大規模な生産設備を先に確保して顧客を取る段階まで来ています。
米国の新設備は、16基のうち12基が稼働前に販売済み
写真会社の設備投資とは、かなり違う景色です。
そしてもう一方の成長領域が半導体材料です。
CMPスラリーは、銅配線用途でNo.1シェア
AIやHBMで半導体が高度化すると、配線層は増え、研磨工程も増えていきます。
会社はこの材料事業を、さらに大きな柱へ育てようとしています。
半導体材料は、2030年度に売上5,000億円を目標
ここまで来ると、「写真の会社ではなくなった」と言いたくなります。
でも、それでは少し違います。
2026年3月期もイメージングは6,271億円を売り上げ、営業利益は1,600億円でした。写真やカメラは消えたのではなく、今も高い収益を生む事業です。
変わったのは、写真で覚えた技術を使う場所です。
THE VIEW AFTER THE NUMBERS
数字をつなぐと、こう見えた
数字をつなぐと、富士フイルムは「写真をやめて医療や半導体へ転身した会社」というより、写真をつくるために蓄積した技術を、別の産業へ何度も移し替えてきた会社に見えてきます。
イメージングは全社売上の18.7%まで比率が下がりましたが、営業利益は1,600億円。そこにヘルスケア1兆989億円、エレクトロニクス4,562億円などが加わっています。2000年代に写真フィルム市場が縮小すると、会社は「技術の棚卸し」を行い、写真で培った化学・薄膜・画像・精密加工の技術を成長分野へ展開しました。
その先に、Bio CDMOの巨大設備と、銅配線用CMPスラリーのNo.1シェアがあります。社名に残る「フイルム」は、過去の名残というより、いまの多事業をつないでいる技術の出発点でした。